BMWにお乗りの皆様の中には、車高が下がってしまったり、シャシー異常の警告灯が点灯したりといったご経験をされた方も多いのではないでしょうか。
エアサスペンションシステムは快適な乗り心地を提供する高度な技術ですが、その分トラブルも発生しやすい部分となっています。
エアサスが落ちを放置すると、車体底部の損傷や走行性能の低下、さらには安全性に関わる重大なトラブルにつながる危険性があります。
この記事では、BMW整備士の経験をもとに、エアサスが落ちる症状の種類と原因、適切な対処法から修理費用の目安まで詳しく解説してみたいと思います。
愛車のエアサスペンショントラブルを早期に解決し、快適で安全なドライブを取り戻すためのお役に立てれば幸いです。
目次
エアサスが落ちる現象にはどのような種類がある?
エアサスの不具合により車高が落ちているBMW 5シリーズ F11
エアサスペンションシステムの不具合は、症状の現れ方によっていくつかのパターンに分類されます。
症状の種類を正確に把握することで、故障箇所を特定し、適切な修理方法を選択することが可能になります。
以下に代表的な症状パターンをご紹介いたします。
- 片側または全体の車高低下 – 長時間駐車後に車高が下がっている
- 走行中の車高変動 – 走行時に車高が下がってしまう
- 警告灯の点灯 – シャシー異常関連の警告表示が現れる
- コンプレッサーの異音 – 頻繁な作動音や異常な音が発生する
駐車中の緩やかな車高低下
駐車後数時間から一晩ほど経過すると、徐々に車高が下がってしまう症状は、エアサスペンショントラブルの中でも最も一般的なパターンです。
エアスプリング本体からのエア漏れが主な原因で、ゴム部品の経年劣化により微細な亀裂が発生し、少しずつ空気が抜けていきます。
特定の車輪のみ車高が下がる症状
四輪のうち特定の一輪または二輪だけが下がってしまう症状は、該当する車輪のエアスプリングやバルブブロックに問題がある可能性を示しています。
片側だけが下がる場合は視覚的にも分かりやすく、車体が傾いた状態になるため、早期発見しやすい症状といえます。
車高調整機能の完全停止
BMWのエアサスペンションには自動車高調整機能が搭載されており、走行状態や積載状況に応じて最適な車高を維持します。
調整機能そのものが停止し、警告灯が点灯する症状は、バルブブロックやコンプレッサーの故障を示唆しています。
急激な車高低下と警告表示
走行中や駐車直後に急激に車高が下がり、同時に複数の警告灯が点灯する症状は、重大なシステム不良のサインです。
エアスプリングの破損や大きなエア漏れ、電気系統の重大な故障が考えられ、早急な対応が必要となります。
症状の種類を正確に把握するためには、いつどのような状況で問題が発生するかを詳しく観察し、記録しておくことが重要です。
エアサストラブルの主な原因には何がある?
BMW 7シリーズ G11のエアサスペンション
エアサスペンションシステムの不具合には、機械的な劣化と電気系統の両方に原因があることが多く、適切な診断が必要です。
原因を正確に特定することで、無駄な部品交換を避け、効率的な修理を実現することが可能になります。
エアスプリング本体の経年劣化
エアスプリングは、ゴム製のエアーバッグに圧縮空気を充填することで車体を支える構造になっています。
長期間の使用により、ゴム部分に亀裂や破損が発生し、空気が徐々に漏れ出すことで車高が下がってしまいます。
特にBMWでは、走行距離が10万キロを超えると、エアスプリングの劣化が顕著になるケースが多く見られます。
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エアコンプレッサー内部部品の故障
エアコンプレッサーは、システム全体に圧縮空気を供給する心臓部ともいえる重要な部品です。
長期間の使用により内部のバルブが固着すると、圧縮空気を供給できなくなったり、または排気し続けたりといった症状で車高維持が出来なくなります。
また、コンプレッサーが頻繁に作動するようになり、異音が発生するケースも多くあります。
バルブブロックの機能不全
バルブブロックは、各車輪への空気の供給と排出を制御する複雑な弁機構です。
バルブの固着により、特定の車輪だけ排気が出来ず車高が高くなりすぎたり、または供給されなかったりする症状が発生します。
バルブブロック内部には複数の電磁弁が組み込まれており、電気的な故障も発生しやすい部品となっています。
圧力保持バルブの故障
G11など車両ではコンプレッサーから各エアスプリングまでエアを送る配管とサスペンション本体の間の部分に圧力保持バルブがあり、この部品が故障するとコンプレッサーがストップすると車高が下がってしまうと言った症状のトラブルが発生します。
車高センサーの故障
BMWのエアサスペンションシステムは、各車輪に取り付けられた車高センサーで現在の車高を監視しています。
センサーが故障すると、システムが正確な車高を認識できず、誤った制御を行ってしまうことがあります。
センサーのリンク部分の破損や、電気接点の腐食による信号不良が主な原因となっています。
複数の原因が同時に発生している場合もあるため、専用診断機による総合的な診断により根本原因を特定することが重要です。
故障箇所の特定方法と診断手順はどのようなもの?
BMWのエアサス交換の様子
エアサスペンションの故障診断は、段階的なアプローチにより効率的に原因を特定することができます。
適切な診断手順を踏むことで、修理時間の短縮と費用の最適化を実現できるため、専門的な診断が重要です。
STEP
症状の詳細確認と目視点検
まず、エアサスペンションの動作状況を詳しく確認し、症状のパターンを把握します。
どの車輪で問題が発生しているか、症状の発生タイミング、警告灯の点灯状況など、具体的な情報を収集します。
また、エアスプリング表面の亀裂や損傷、配管の状態を目視で確認することで、明らかな不具合を早期発見できます。
STEP
専用診断機によるシステムチェック
BMW専用診断機を使用して、エアサスペンションシステム全体の状態を確認します。
エラーコードの読み取り、各センサーの数値確認、コンプレッサーの作動状況を詳細に分析します。
診断機からバルブを個別に制御することで、各車輪のエアスプリングやバルブブロックの動作確認も実施できます。
STEP
エア漏れの特定作業
システムに圧縮空気を充填した状態で、石鹸水などを使用してエア漏れ箇所を特定します。
エアスプリング本体、配管接続部、バルブブロック周辺など、システム全体を丁寧に点検していきます。
微細な漏れでも時間をかけて観察することで、原因箇所を正確に把握することができます。
STEP
電気系統の点検と測定
コンプレッサーやバルブブロックへの電源供給、車高センサーの信号を測定します。
電圧・電流値の測定、配線の導通確認、コネクターの接触状態チェックにより、電気的な不具合を診断します。
センサー信号の異常や、コンプレッサーの電源供給の異常などを確認することで、故障部品を特定できます。
| 診断項目 | 確認内容 | 必要工具 |
|---|
| 目視点検 | エアスプリング、配管の外観確認 | リフト、照明器具 |
| システム診断 | エラーコード、センサー値確認 | BMW専用診断機 |
| エア漏れ点検 | 石鹸水による漏れ箇所特定 | 石鹸水、圧縮空気 |
| 電気系統 | 電圧・電流測定、配線点検 | マルチメーター、配線図 |
| 作動確認 | コンプレッサー、バルブ動作 | 診断機 |
診断項目と必要工具
正確な診断のためには、専門知識と適切な工具が必要です。複雑な症状の場合は、BMW専門の整備工場での診断をおすすめします。
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修理費用と予防メンテナンスの方法とは?
交換後のMIESSLER AUTOMOTIVEの新しいエアスプリング
エアサスペンションの修理費用は、故障部品や症状の重篤度により大きく異なります。
早期発見と適切なメンテナンスにより、高額な修理費用を回避することが可能であり、定期的な点検が重要です。
| 修理内容 | 費用の目安 | 修理期間 |
|---|
| エアスプリング交換(1輪) | 50,000円~250,000円 | 2時間~4時間 |
| コンプレッサー交換 | 100,000円~250,000円 | 1時間~2時間 |
| バルブブロック交換 | 30,000円~50,000円 | 1時間~2時間 |
| 車高センサー交換 | 20,000円~50,000円 | 1時間~2時間 |
修理費用の目安(工賃込み)
予防メンテナンスの重要性
エアサスペンションの故障を未然に防ぐためには、定期的な予防メンテナンスが効果的です。
エアスプリング表面の清掃、配管接続部の点検、システム圧力の確認などを定期的に実施することで、部品の寿命を延ばすことができます。
特に冬季前には、ゴム部品が低温で硬化し亀裂が入りやすくなるため、入念な点検が推奨されます。
日常的な使用上の注意点
エアサスペンションの寿命を延ばすためには、日常的な使用方法にも注意が必要です。
極端な段差を高速で乗り越えない、過積載を避ける、異音や警告灯に早期対応するなど、適切な使用を心がけることが大切です。
また、長期間車両を使用しない場合でも、定期的にエンジンを始動し、エアサスシステムを作動させることで、部品の固着を防ぐことができます。
- 定期的な目視点検により、エアスプリングの亀裂や配管の劣化を早期発見する
- エアスプリング表面の清掃により、汚れや異物による劣化進行を防止する
- 車高の異常や警告灯点灯時は、早期に専門工場で診断を受ける
- 年1回の専門点検により、システム全体の総合的な状態を確認する
予防メンテナンスにかかる費用は、故障修理の費用と比較すると非常に安価です。定期的なケアにより、長期的なコスト削減を実現できます。
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エアサストラブルの対処法とまとめ
リビルトで取り外したアッパーマウント点検の様子
BMWのエアサスペンションが落ちる症状は、様々な原因によって発生する複合的な問題です。
特に、駐車中の緩やかな車高低下や特定車輪のみの下がり、警告灯を伴う急激な低下など、症状のパターンによって原因をある程度推測することが可能です。
その原因としては、エアスプリング本体の経年劣化をはじめ、エアコンプレッサーの性能低下、バルブブロックの機能不全、エア配管とコネクターの劣化、車高センサーの故障、さらにはコントロールユニットの不具合などが挙げられます。
これらの不具合を診断する際は、まず症状の詳細確認から始め、次に専用診断機によるシステムチェック、さらにエア漏れの特定作業、そして電気系統の点検へと、段階的なアプローチで原因を特定していきます。
また、予防メンテナンスとして、定期的な目視点検やエアスプリング表面の清掃、車高異常時の早期診断、年1回の専門点検を実施することで、高額な修理費用を回避し、エアサスペンションシステムの寿命を延ばすことができます。
- エアサスが落ちる症状には駐車中の緩やかな低下、特定車輪のみの低下、車高調整機能の停止、急激な低下と警告表示などのパターンがあり、症状により原因を推測できる
- 主な原因にはエアスプリングの経年劣化、コンプレッサーの性能低下、バルブブロックの機能不全、センサー故障、などがある
- 診断は症状確認→専用診断機チェック→エア漏れ特定→電気系統点検の4段階で実施し、専門的な工具と知識が必要
- 修理費用はエアスプリング交換からコンプレッサー交換まで故障部品により大きく異なる
- 定期的な目視点検、清掃、早期診断、年1回の専門点検により予防メンテナンスを実施し、故障リスクを軽減できる
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